営業というのは無茶を行ってくるもの
それは重々わかっているのだが、今回はいつもにも増して無茶ぶりじゃないですか!?
そう言いたくなりました。
(というか言いました)
◆現物なし、記憶だけ——始まった色合わせミッション
印刷業界で働いていると印刷物の色合わせの仕事自体はよくあるのですが、ありますよね…?
(分かりやすいのは訂正シールとかでしょうか。上から貼りたい時に周りとの差異を無くすために色を調整するのです。データや、印刷機で)
今回営業に頼まれたのは、
- 現物は手元にないし、写真はあるけど光の加減で全然色がわからない
- 頼りになるのは営業の記憶とDICの色見本
- しかも印刷する機械も用紙も違うし、ラミネート加工もある……
……無理じゃない? 正直そう思いました。
そう思っても……、そう営業に言っても、やらないという選択肢はありません……。
ちなみにDICとは?
DICカラーガイド(ディーアイシー-、DIC Colorguide)は、DIC株式会社(旧:大日本インキ化学工業)が出版する色見本帳で、同社の登録商標。1967年から出版され、印刷会社やデザイナーなどの間で色の指定や色合わせに利用される代表的な色見本帳である。DICカラーや、単にDICとも呼ばれる。
色は、マンセル・カラー・システムやオストワルト・カラー、PCCSの色相環を元に、系統的に分類、配列され、カラーナンバーと色相、インキの配合比率が表示されている。色の印刷方法は特色で、実際の印刷の際に同じ配色を用いれば限りなく近い色を再現することができる。姉妹品のカラーチャートシリーズなどはプロセスカラーで印刷されている。
色が印刷されている紙はアート紙なので、それ以外の紙に印刷する場合は見本通りの色の再現は難しい。
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 DICカラーガイドより
◆何度でも何度でも試す——試行錯誤の日々
さすがに営業も気を使ったのか「急いでないから手が空いてる時でいいよ」そう言っていたので、手の空いている時に少しずつ近い色を探すことにしました。
Illustratorで四角を作ってDICカラーのチップを作成。
案の定モニターの色味だし全然違います。
CMYKに分解、類似色を探してそれをベースに様々なパターンを作って、一旦印刷しました。
うん……全然色が違う。
元々、私の職場の機械は赤と黄色が少し強く出るんです……。
他の人たちと
「なんの案件?」
「〇〇さんの案件で~DICをサンプルに色を作って欲しいって言われて」
「いや、無理でしょ。DICってその為の色を作ってるし」
「知ってますよ……。それでもやらないといけないんですよ……」
「また無茶ぶりされたの?(笑)」
「またですよ!」
そんな会話を交わしつつIllustratorのカラーパレットの数字を1%単位で変更しました。
これだと赤身が強い…。ここにk1%入れるとダメなのか…。
こだわり始めたらとことんこだわる自分の性格を呪いたくなりました。
いくつもパターンを作成しているので1つくらい近いものがあってもいいはずなのに、印刷してみると何かが違う。
いくら作っても違うという事は何か見落としてるんだろう…そんな思いで、DICの色見本を見つめながら何が違うのか考えました。
(——紙が違うのか!)
◆再現のカギは「用紙の質感」だった
そうなんです。DICの色見本はつるっとした光沢紙。
私が試しに印刷していたのはコピー用紙。
実はこの違い、色にとってはとても大きな問題なんです。
光沢紙は、表面に加工がされていてインクが紙に沈みこみにくく、同じCMYKの数値でも、より鮮やかで明るく見える傾向があるんです。
逆にコピー用紙のようなざらついた用紙では、インクが紙に染み込んでしまい、色が沈んで見えがちです。
……そりゃ、色が合わないはずですよね。
気づいた私は、すぐに光沢のある紙で改めて印刷してみることにしました。
あ……。結構いい感じ……。
印刷したものを見た時は光明が差したのかっていうくらい、ほっとしました。
印刷する用紙が違っただけで、これだけ試行錯誤を繰り返すのですが、そもそも本番は機械も用紙も全く違うものになります。
そうなると当然ながら、色もどう出るのか正直分からないのです。
◆それでも期待に応えるために
それが分かっているのになぜ、そこまで試行錯誤したのか。
それはやはり、プロとしてのプライドと、せめて私がここである程度合わせておけばせめて近い色はあるのかもしれない。そうすれば営業も、実際印刷する工場もスムーズにいくかもしれない。
他の人の負担を減らしたい、という思いが少なからず私の中にあったから…なのでしょう。
一旦満足行くサンプルが出来たので、笑い交じりに営業に言いました。
「もし、現調(現地調査)に持って行って合う色が無かったらどうするんですか?(笑)」
「え? 俺また行くの嫌だよ。この中から見つけてくる!」
「…………(苦笑)」
◆まとめ:色合わせに「正解」はない。でも、できることはある。
色は紙でも、機械でも、環境でも変わってしまいます。
場合によっては数時間後に変わってた! なんてこともざらです。
それでもお客様の期待に応えるために“今できる最善”を積み重ねているのが、印刷の現場なんだと思います。
そして、それを支えるのは、現場の人たちの「なんとかしよう」という静かな執念。
現場にいる誰かの励みになるように——この試行錯誤の記録を、残しておきたい。そう思うのです。
コメント